今回ネイルサロンに行くことになった。
私を含め大多数の男は散髪以外の「ボディケア」を経験したことがないのではないか。
と書きながら、私は過去に「日やけサロン」に行ったことがあったのを思い出した。

京都造形芸術大学、春秋座で行われたファッションショーにモデルとして参加した時だった。
そのとき出展したブランドは当時としてはめずらしく主力で男性用下着の展開もしており、下着姿にもなるということだった。
さすがに人前で裸同然になるならしめておかないと、とピラティスやったりマシーンを使ってトレーニングし、「日サロ」で身体をやいた。
10年程前の話で今にしてみると、若かったなあと思う。


13:00から予約を入れていたが、前の予定が思ったよりも早く終わり30分前に着いてしまった。
角地のビルの8階にある「FAST NAIL」にエレベーターで上る。

8階に着くとすぐに入り口があり、ガラス越しに清潔そうな明るい店内が見えた。
しかし、男性客を受け入れてくれたとはいえ、そこはやはり女性のサンクチュアリ感が濃厚に漂っており、とっさに扉を開けることができず、そのまま素通りして入り口横にある非常階段で下に降りてしまった。
下の階との踊り場で意を決して引き返し扉を開けた。
ちょうどカウンターにお店の人がいた、が接客中だったので待ち店内を眺めた。
店内にはすでに施術を受けているお客さんが数人いらっしゃるようだ。
受付と施術室?ようするにネイルのサービスを受けられるスペースとは、開け放しの通用口以外パーティション状の壁になっていて中の様子は見えないが気配でわかった。
すると奥から他の店員さん(ネイリストと思う)が来たので、「あの、予約してました。早く着いてしまったんですが」と言うと、「かけてお待ち下さい」と言ってくれた。

待合というか、カウンター前にはPCが対面で10台程並んでおり、その中の1台の前に座ると「会員登録をお願いします」とのことだった。
それは施術を受けられる条件のようだ。
入力しようとするが10インチくらいのモニターでキーボードが通常の半分くらいの大きさだったので慣れておらず扱いにくかった。

登録が終わると案内してくれ「お手洗いは大丈夫ですか?」と言われたので、「何分くらいかかりますか?」と聞くと「15分くらいですよ」ということだったので「じゃあ大丈夫です」と言ってから、自分で(・・・なにが大丈夫なんかなあ・・)一瞬思った。
カウンター式の席の前に行くと1人あたり50cm程のスペースに、腕を乗せる台がありその前にネイリストが向かい合って座る。
ネイリストの前には様々な道具があり、ハサミとかヤスリっぽいものは見て分かるが、使用用途が不明な道具もいくつかある。
私は子どもの頃から「用途不明の道具」に強く惹かれる。
ネイリストの方が自己紹介をしてくれた。
そして「最後にオイルで仕上げますが大丈夫ですか?」と聞かれた。
(オイルで仕上げるということはピカッと光るということだよなあ)と思い、「どのくらいピカッとしますか?」と聞き返すと、「塗るわけではないのでそんなに不自然ではないですよ」ということだった。
じゃあ、せっかくなので、とオイル仕上げしてもらうことにした。

その会話をしている間にも作業は進んでおり、まず爪のあま皮を削っている。
角度の付いていないバターナイフみたいなやつでカリカリと爪の根本を掻いている。
用途不明な道具の用途がひとつ分かった。
「どちらでここのことを知りました?」と聞かれたので、「HPを見ました」と言った。
何か、話が詰まりそうな気がしたので「こないだ近所の百貨店のネイルサロンに行ったら女性専用と断られました」と別に聞かれてもしないことを喋った。
そして喋りながらやたら暑いなと感じ、自分のデコから汗が流れてゆくのをみとめた。
そうだ、私は緊張していたのだ。
その百貨店のネイルサロンは今までの人生で「ネイルケア」に接近したことがなかった私が、今回の企画でネイルサロンに行くと決まりどこに言ってよいか分からず困っているところ、デイが、「上本町にありましたよ。“自分で爪切るのってめんどくさくないですか!?”って書いてありましたよ。」と教えてくれたので行ってみた。
しかし駄目だった。

そんなことを思っているとネイリストが、「普段から爪のお手入れに興味がお有りですか?」と言った。
「実は自分は興味がなかったが、行ってくるよう言われたblogのために」と答えると、「へぇー、仲間でblogとかやってるんですか」「それでいろんなネタ、探してるんですねえ」
(ああ、おれはブロガーと思われているんかなあ。そんなに一所懸命やってないのになあ)だが、説明できなかった。
間違ってもなかったし。
爪にかけられているヤスリは絶妙な弾力があり指先のカーブに沿って弧をえがく。ヤスリはヤスリと見てすぐ分かるが、今度はヤスリが何で出来ているのか素材が気になった。
突然ネイリストの方が交代した。
何か急な用があったのか?
別のネイリストが来て、ささっと引き継ぎをして作業を進めていく。
気付いたことだが前のネイリストも指がキレイだった。
そしてどちらのネイリストもそうだが、とにかく作業がテキパキしている。
職人的な仕事なんだなと思いながら作業を見ていたら、さっきと同じ質問をされたので同じことを答えた。
化粧で使うハケみたいなやつで指先の粉を払いオイルを塗ってくれると、すると爪がピカッというかキラッと言って良いほどの輝きを見せ、これには驚いた。
あま皮周辺の皮は固くクリームでは染みにくいらしい。

普段、指先を人に見られる仕事をしているわけではなく、なんだったら手袋をして作業をしているので人に見せることはない。
しかし、営業職の人が名刺を渡すときこれくらい爪が光ってたら印象にのこるだろうし、ショップの店員さんでもインパクトある有効打だろう。攻撃なんかじゃないが。
「まあ隠れたオシャレってことで」と思うことにし、だいたいカットハウスに行ったくらいのお値段、税込価格3,229円支払った。

その夜、友人たちとの飲み会があった。
仮に散髪して行っても男同士なのでいちいちふれないだろうし、ましてや爪なので気にもしていなかっただろう。
しかしこちらは初のお手入れをやってきたばかりだったので、友人たちの爪を観察していた。
誰ひとりとしてその日の私よりピカッと光った爪を持っているものはいなかった。
なので、なんとなく優越感を持ってしまったのもおかしな話だが事実だった。
今まで人の、さらに同性の爪なんぞに関心を持ったことがなかったが、自分がケアすることにより関心を持つこととなった。
これが「当事者意識」ってやつか。
などと思い、物事に具体的にかかわると意識せずとも当事者意識を持ってしまうものだと、思い直した。



(エレベーターホールに貼ってあったポスター。たぶん地元の中学校の美術部員が手掛けたのだろう、ごもっともなキャッチコピー。)


そういえばネイルサロンを出てすぐ、体験した事を記録しておきたかったので近くのカフェに寄ってコーヒーを注文した。
299円という低価格でサイフォン式のコーヒーを飲ませてくれるのだが、とにかく店員さんの態度がすこぶる悪かった。
というか、殺気立っているというレベルだった。
確かに忙しそうな時間帯であったが、その値段でサイフォンで落としたコーヒ-が飲めるということは経費のどこを削っているのかおよそ見当はつく。
労働に対しては不満しかないのだろう。
これはこれで、興味を持つべき事柄として気に留めておこうと思った。


FASTNAIL(ファストネイル)大阪梅田店
http://fastnail.jp/nailsalon/umeda.html